我々は、スピロ骨格を有する光学活性ビスイソオキサゾリン配位子「SPRIXs」の合成に成功している。本年度は、SPRIXを利用する新規不斉反応の開発と、Pd-SPRIX錯体を触媒として用いた場合にのみ進行する不斉タンデム環化反応のメカニズムの解析を中心に検討した。新規反応の開発では、上記のオキシパラデーションを経由するタンデム反応にさらに一酸化炭素挿入反応を組み合わせて、二環式ラクトンを60%ee程度ながら光学活性体として得ることに成功した。本反応では5員環ラクトンと6員環ラクトンの混合物が得られる。しかし、反応に用いる溶媒によりその比が大きく変化することから、選択性の向上を検討している。本反応では複雑な構造の光学活性体が短工程で得られるため、今後は有用生理活性物質合成への応用を検討したい。また、オレフィンに対して求核的に働く官能基としてアミノ基を用いての検討も行い、目的の反応が進行することを確認した。メカニズムの解析に関する研究では、スピロ骨格を持たないイソオキサゾン配位子を二種類合成し、それらのイソオキサゾリン配位子でもPd-SPRIXを用いた場合と同様の反応が進行することより、SPRIXに見られるスピロ骨格のひずみが必ずしもSPRIXの特性に必要ではないことを明らかとした。しかし、ビナフチル骨格を持つ光学活性なイソオキサゾリン配位子ではほとんど不斉誘起が見られず、スピロ骨格のもたらす不斉環境の有用性を確認することができた。
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