ニトロキシドラジカル(NR)が結合したフタロシアニン(Pc)は、光励起により基底状態の磁気的性質が変化する興味深い化合物である。本年度は、その磁気的性質の光制御を総合的に評価するため、幾つかのNR結合型色素について、時間分解ESR(TRESR)、蛍光、りん光、過渡吸収測定を行い、励起状態の動的挙動について以下のことを明らかにした。 (1)蛍光 NR結合型ケイ素PcのS_1蛍光は、二次の指数関数で減衰した。これは通常の消光過程では説明できず、S_1と近接した励起三重項間の項間交差がラジカルによりスピン許容となることで説明された。 (2)過渡吸収 NRが結合することで、励起多重項の寿命が短くなる(〜1/100)ことが解った。さらに、幾つかのNR結合型ケイ素Pcを比較し、二重項NR-励起三重項Pcから形成される励起二重項(D_1)-励起四重項(Q_1)間エネルギー差が非常に小さい錯体の寿命が、最も短いことを見出した。これは、D_1-Q_1が混合しているためと考えられ、TRESRと過渡吸収の比較から得られた興味深い結果である。 (3)りん光 りん光を観測しやすい亜鉛オクタエチルポルフィリンにNRを配位させた幾つかの錯体において、りん光寿命を測定した。ポルフィリン-NR間距離が8Å以下ではQ_1状態のTRESRスペクトルを示し、りん光寿命も著しく短くなった(<1/10)。一方、10Å以上では、励起三重項ポルフィリンのTRESRを示し、りん光も消光されなかった。これより、TRESRスペクトルとりん光寿命は、良い相関を持つことが示された。
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