研究概要 |
第9族元素のクラスター錯体の金属原子骨格のフロンティア軌道を配位子上に非局在させることならびにフロンティア軌道の形と酸化電位を同時に制御することを目指し,新しい骨格をもつクラスター錯体を合成し、その電子状態の特質を明らかにすることを自的として研究を行った.詳細は以下の通りである: (1)コバルト-ロジウム混合金属三核錯体[Cp_3M_3(μ_3CPh)_2]を合成し,酸化還元電位の変化などから,ロジウムの数が増えるに従いHOMO-LUMOギャップが開いていくことを明らかにした.(2)コバルト三核錯体[Cp_3M_3(μ_3CPh)_2]のカチオンラジカルを合成し,中性錯体からの構造変化,^1H-NMR常磁性シフト等からHOMOの軌道はコバルト三角の面外のキャップ配位子上にも電子密度のある軌道であることを明らかにした.(3)コバルト三角の1辺をハロゲンが架橋した錯体を合成し,この錯体の生成の機構はコバルト三核カチオンとハロゲン化物イオンの相互作用を経由することを明らかにした.(4)イリジウム(II)複核錯体の軸位にホスフィン,アルシンなどを結合させた化合物[Ir_2(O_2CCH_3)Cl_2(CO)_2L_2]を合成した.この内4種の化合物についてX線構造解析を行い,そのIr-Ir距離がトリシクロヘキシルホスフィン(PCy_3)錯体ではアセトニトリル錯体に比べて約0.12Å長くなることがわかった.また,化学的に可逆な酸化波のE_<1/2>はアセトニトリルを軸配位子とする錯体の1.30Vから負側にシフトし,PCy_3錯体では0.21Vであった.低温での電解酸化により発生させたカチオンラジカルのESRからこの錯体のHOMOはO_<IR-IR>軌道であることが明らかとなった.(5)ロジウム4核錯体[Rh_4(O_2CPr)_4(CH_3CN)_4Cl_4]がオレフィンの水素化反応を触媒することを見出した.(6)モノチオ酢酸架橋をもつ新奇イリジウム(III)複核錯体を合成した.
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