本基盤研究で得られた成果は下記の通りである。 【1】各種アミン系二座、三座および四座配位子を用いて調製した銅(I)錯体と分子状酸素との反応について、系統的に検討を加え、生成する活性酸素錯体の構造や分光学的特性および安定性を明らかにするとともに、それらに及ぼす配位子の効果について重要な知見を得た。 【2】(μ-η^2:η^2-peroxo)二核銅(II)錯体の酸化活性を明らかにするため、各種基質に対する反応性について系統的に検討を加え、フェノールの定量的な酸素化反応を見いだし、その反応機構を解明した。 【3】(μ-η^2:η^2-peroxo)二核銅(II)錯体から酸素-酸素結合の開裂を経て生成すると考えられる、bis(μ-oxo)二核銅(III)錯体の生成過程や、それによるアルカンの定量的水酸化反応および各種基質への酸素添加反応を見いだし、それぞれの反応機構を明らかにした。さらに、bis(μ-oxo)二核銅(III)錯体の不均化により(μ-oxyl radical)二核銅(III)活性種が生成することを世界で始めて明らかにすることに成功した。 【4】銅以外の遷移金属として主にニッケル用い、同様の活性酸素錯体を調製し、その構造や物性および反応性について詳細に検討を行い、中心金属の役割を明らかにした。 【5】酸素の同属元素であるイオウについても同様に検討を行い、ジスルフィド結合を有する二種類の配位様式が異なる二核銅(I)錯体と、S-S結合が還元的に開裂して生成したbis(μ-thiolato)二核銅(II)錯体を合成することに成功し、それらの生成過程を制御する因子を解明した。さらに後者の錯体は、チトクロームc酸化酵素の活性中心モデルとして、その構造や分光学的特性を酵素系のものと比較検討した。
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