研究概要 |
本研究では強く水素結合したプロトンの移動と酸化還元活性な金属イオン間の電荷移動あるいは電子移動などを結びつけられる新たな分子システムの開発を目指して研究を行った。プロトンを使用した物性は電子やスピン系などと同じように量子効果を示すことが知られている。特に、電子伝導体や磁性体などに摂動をあたえる制御系としてプロトン移動の量子効果を用いる方が比較的物性を発現させ安いものと考えられる。さらに、このプロトンを使うためには水素結合というプロトン特有な性質で物質の中に存在させ、これらを含めた分子系として設計が可能なことにある。このような系の構築を目指すためには、まず存在する水素結合型プロトンが遷移金属イオンの酸化還元反応に影響を受けるような配位子を見出すことが重要である。(金属イオンの価数の変化によって水素結合型プロトンのpKa値が大きく変化するもの)このような性質を持った配位子は2,2-1-Bimidazole(1)といわれる物質で見出されることがすでに報告されている。すなわち、この水素結合型プロトンの溶液中でのpKa_1とpKa_2はRu^<II>/Ru^<III>/Ru^<IV>などの酸化還元反応に伴って高酸化状態になるほど低くなる。これらを水素結合性の固体に展開できれば遷移金属イオンの酸化還元反応と共に分子間水素結合力の強弱が現れるような物質開発ができるものと考えられた。強い水素結合を持つ2量体分子[Re^<III>Cl_2(PPh_3)(Hbim)]_2(2)は溶液中でも安定であることが考えられるが、CV測定を行ったところRe^<II>Re^<II>【tautomer】Re^<II>Re^<III>【tautomer】Re^<III>Re^<III>【tautomer】Re^<III>Re^<IV>【tautomer】Re^<IV>Re^<IV>の混合原子価状態を含む酸化還元波が観測された。これは水素結合を介した混合原子価状態の発生を示唆しているため、この錯体のプロトン互変異性と共に外圏型電子移動を起こしているものと考えている。これらの混合原子価状態の水素結合2量体は新たな誘電性を持つデバイスとして有効に働くものと考えられる。
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