前年度の実験で、展開物質にはステアリン酸を選び、下層水にZnCl_2水溶液を用い、生成したステアリン酸亜鉛塩を固体膜の状態(表面積0.2nm^2/molecule)まで一気に加圧し、その後、表面圧の緩和過程で、分子構造がどう変化するかを、申請の主要設備である偏光変調赤外外部反射装置を用いて、主にCH_2逆対称伸縮振動の波数、CH_2はさみ振動の波数、ならびにCOO^-逆対称伸縮振動の波数をモニターする事により検討した。今年度は、同じ系で、表面圧の緩和過程で、前述の各振動モードのバンド強度がどう変化するかを検討した。その結果、CH_2逆対称伸縮振動およびCH_2対称伸縮振動の反射吸光度は共に減少する傾向を示した。これは、圧縮直後には一旦垂直配向した炭化水素鎖が、徐々に、より安定な傾いた構造に変わることを示唆している。また逆に、同じ過程で、COO^-逆対称伸縮振動およびCOO^-対称伸縮振動の反射吸光度は増加傾向を示した。この結果は、COO^-基の作る面が最初水面に対して、傾斜していたものが、時間と共に数十分のオーダーでより水面に近く再配向することを示唆している。すなわち、ステアリン酸亜鉛の単分子膜においては、親水基と疎水基が互いに影響を及ぼし合いながら、より安定な構造に移ってゆく様子を観察することが出来た。このように、本研究は、重金属イオンの生体関連物質への影響を調べる、基礎的なデーターを提供するのに成功している。
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