主要設備である偏光変調赤外外部反射装置を現有のニコレーMagna850型FT-IR分光光度計にとりつけ、水面上の外部反射スペクトルの観測に耐え得るよう、設定した。ついで、展開物質には、ステアリン酸おび12-ヒドロキシステアリン酸を選び、下層水にはZnCl_2水溶液を用い、生成した各亜鉛塩のラングミュア膜の、種々の表面積での偏光赤外外部反射スペクトルを測定し、その解析を行った。ステアリン酸亜鉛のラングミュア膜においては、表面積の変化に対し、CH_2の伸縮震動バンドは、波数、吸光度ともに変化は見られなかった。これは炭化水素鎖の配向とコンフオメーションには変化が起こらなかったことを意味する。一方、カルボキシレートの伸縮振動バンドの波数には変化が見られた。これはカルボキシレート基の構造変化に対応しているものと考えられる。12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛とステアリン酸亜鉛のラングミュア膜とでは、炭化水素鎖軸の、膜面の法線方向に対する配向に違いが見られた。また、急圧縮後30分ほどの間の表面圧緩和過程で、CH_2逆対称伸縮振動の波数が、2916cm^<-1>から2914cm^<-1>まで低下するとともに、CH_2はさみ振動の波数が、1470cm^<-1>から1474cm^<-1>へと増加した。前回の圧縮実験では、これらの波数は30分後の平衡値になっており、値に変化は見られなかった。緩和過程でのこれらのバンドの波数の変化は、いずれも構造が高度に緻密化する結果であることを示唆している。一方、同じ過程で、COO^-逆対称伸縮振動の波数は、1540cm^<-1>から1543cm^<-1>へと増加した。この波数は、COO^-基がZn^<++>イオンとイオン結合した波数であるが、波数の増加は、OCO角の増加として解釈できる。本研究は、重金属イオンの生体関連物質への影響を調べる、基礎的なデーターを提供するのに成功している。
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