脂質分子の自己組織化におよぼす静水圧力の効果

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11440206
• 研究機関: 徳島大学
• 研究代表者: 金品 昌志 徳島大学, 工学部, 教授 (80035617)
• 研究分担者: VILLENEUVE 真澄美 埼玉大学, 理学部, 助手 (30304554) ; 松木 均 徳島大学, 工学部, 助教授 (40229448)
• キーワード: リン脂質 / 二分子膜 / 相転移 / 高圧力 / 生体膜 / 液晶相 / ゲル相 / 指組みゲル相

研究概要

種々のリン脂質二分子膜の高圧力下における相挙動を解析し,疎水基と親水基の結合様式,疎水鎖におけるシスおよびトランス二重結合,sn-2位への不飽和鎖の導入等の効果について検討した。
1.リン脂質分子膜の指組み構造形成におよぼす圧力と疎水鎖長の影響を調べた。エステル結合型のジアシルホスファチジルコリンでは炭素数14以上のアシル鎖を有する脂質二分子膜において圧力誘起指組みゲル相が出現した。アシル鎖が長くなるほど低圧力で指組みゲル相が現れた。エーテル結合型のジアキルホスファチジルコリンでは,常圧下ですでに指組みゲル相を形成しており,加圧は指組みゲル形成を促進した。
2.リン脂質二分子膜の相挙動におよぼすトランスおよびシス二重結合の影響を調べる目的で,ジステアロイル-(DSPE)、ジェライドイル-(DEPE)およびジオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)二分子膜の高圧力下における相転移を観測した。飽和アシル鎖をトランスあるいはシス二重結合をもつ不飽和アシル鎖に置換すると相転移温度は著しく降下した。相転移に伴うエンタルピー変化,体積変化も二重結合の導入により減少した。シスおよびトランス二重結合が二分子膜ゲル相におけるアシル鎖のパッキングを乱し,ゲル相を不安定化することに帰せられる。
3.2本のアシル鎖のうちsn-2位にシス二重結合をもつ不飽和アシル鎖を導入した場合の脂質分子膜の相挙動を調べた。パルミトイル-オレオイル-ホスファチジンエタノールアミン(POPE)およびパルミトイル-オレオイル-ホスファチジルコリン(POPC)二分子膜相転移を高圧力下で測定した。2本のアシル鎖が共に飽和あるいは共に不飽和のリン脂質に比べて,相転移温度,相転移エンタルピー,相転移体積は中間の値を示した。

研究成果

• [文献書誌] S.Kaneshina, S.Endo, H.Matsuki, H.Ichimori: "Effect of Pressure on the Bilayer Phase Transition of Diacylphosphatidylethanolamine"Trends in High Pressure Bioscience and Biotechnology. 139-146 (2002)
• [文献書誌] H.Ichimori, F.Sakano, H.Matsuki, S.Kaneshina: "Effect of Substitution of Water by Deuterium Oxide on the Phase Transitions of Phospholipid Bilayer Membranes under High Pressure"Trends in High Pressure Bioscience and Biotechnology. 147-152 (2002)
• [文献書誌] H.Matsuki, M.Kusube, H.Ichimori, S.Kaneshina: "Effect of Pressure on the Bilayer Phase Transitions of N-Methylated Dipalmitoylphosphatidylethanolamines"Trends in High Pressure Bioscience and Biotechnology. 153-158 (2002)
• [文献書誌] H.Matsuki, S.Kaneshina: "Molecular Interactions between Local Anesthetics and Model Biomembranes"Encyclopedia of Surface and Colloid Science. 3517-3534 (2002)
• [文献書誌] 松木均, 楠部真崇, 金品昌志, 釜谷比羅志, 上田一作: "ジパルミトイルホスファチジルコリン二分子膜の相転移温度におよぼすミリスチン酸の影響"麻酔と蘇生. 38・4. 229-232 (2002)
• [文献書誌] 松木均, 坂野文彦, 秦隆志, 一森勇人, 金品昌志: "リン脂質二分子膜の指組み構造形成におよぼす圧力と疎水基鎖長の影響"生物科学・食品科学への高圧利用. (印刷中). (2003)
• [文献書誌] 楠部真崇, 松木均, 金品昌志: "リン脂質二分子膜の高圧力下における相挙動:親水基頭部の構造とサイズの影響"生物科学・食品科学への高圧利用. (印刷中). (2003)
• [文献書誌] S.Kaneshina, H.Matsuki, M.Kusube, H.Ichimori: "Effects of Cis and Trans Unsaturation on the Barotropic and Thermotropic Phase Behavior of Phospholipid Bilayers"Advances in High Pressure Bioscience and Biotechnology II. (in press). (2003)
• [文献書誌] H.Matsuki, M.Kusube, T.Hata, S.Kaneshina: "Barotropic and Thermotropic Phase Behavior of Bilayer Membranes Composed of Phospholipids Cntaining Cis Double bond in the sn-2 Acyl Chain"Advances in High Pressure Bioscience and Biotechnology II. (in press). (2003)
• [文献書誌] 金品昌志, 松木均: "光高圧機器・高圧研究機器設計図集(浅野努, 上野正勝, 高木利治編集)(高圧力下におけるリン脂質二重膜の相転移観測)"光高圧機器「高圧研究機器設計図集」出版会. 146-148 (2002)