研究概要 |
脂質分子の自己組織化におよぼす圧力効果を理解する目的で,種々のリン脂質二分子膜相挙動を加圧下で観測した。結果は以下のように要約される。 1.飽和アシル鎖(炭素数12〜18)をもつジアシルホスファチジルコリン二分子膜の主転移温度は加圧により直線的に上昇した。dT/dPの値は0.20-0.23KMPa^<-1>の範囲で鎖長依存性を示した。 2.ラメラゲル相からリップルゲル相への前転移温度も加圧により上昇した。その傾き(dT/dP)は小さく,0.12-0.14KMPa^<-1>となり鎖長依存性を示さなかった。 3.圧力誘起指組みゲル相が観測された。アシル鎖炭素数が増すと指組みゲル相の出現する限界圧力は低下した。限界圧力は14:0-PCでは300MPa,16:0-PCでは100MPa,18:0-PCでは70MPaであった。炭素数13以下では圧力誘起指組みゲル相は出現しなかった。 4.エーテル結合型リン脂質の二分子膜相挙動を観測し,エステル結合型リン脂質との差異を検討した。主転移に対しては両者で差異は認められなかったが,前転移は著しく異なっていた。エーテル結合型リン脂質では前転移は指組みゲル相からリップルゲル相への転移であり,dT/dPの値が大きいため,加圧によりリップルゲル相は消滅した。 5.不飽和アシル鎖を有するリン脂質二分子膜の主転移温度はいずれも加圧により直線的に上昇したが,dT/dPの値は飽和リン脂質に比べて小さい値を示した。ジステアロイルホスファチジルコリンのアシル鎖にシス二重結合を導入すると,1本のアシル鎖につき約48℃だけ主転移温度を降下させる効果が認められた。 6.親水基の効果について検討した。ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)の親水基をNメチル化したリン脂質では,置換したメチル基の数が増すと主転移温度は降下した。相転移の熱力学量(エンタルピーおよび体積)にはNメチル化効果はほとんど認められなかった。
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