研究概要 |
界面活性剤は水中で分子同士が一定の規則に基づいて配向し,ミセルや液晶などの分子組織体を形成する。最近研究代表者は、ずり流動場下でポリオキシエチレン系界面活性剤のラメラ液晶相からの中性子小角散乱を測定し、特定のずり速度領域において、液晶ドメインの破壊と再構成に関わる興味深い過程を見出した。その機構を解明するために,以下の実験を行った。 1.ずり流動場光散乱観測装置の製作:中性子小角散乱に比べてより広い空間スケールにおける構造を調べるために,ずり流動場下で光散乱を測定する観測装置の製作を昨年度より開始した。今年度は,送液ポンプによる試料の蒸発防止機構を整備し,また温度制御方式を改良した。その関係で,セルホルダーの材質をステンレスからより熱伝導率の低い高分子材料に変更したため,粘度測定に関する性能試験を再度行った。なお,高額な石英セルを何度か破損したため,当初予定よりも消耗品費を多く必要とした。 2.ずり流動場中性子小角散乱の測定:東海村の東大物性研中性子散乱研究施設SANS-Uにおいて測定を行なった。昨年度の実験において,定常状態に達するのに要する時間がほぼ確認できたので,今回は用いるずり速度を限定し,各ずり速度につき2時間前後をかけて測定を行うと共に,その間の経時変化を調べた。その結果,回折ピーク位置および強度に特異な変化が見られるずり速度領域は,当初の予備測定の場合よりも1桁ほど高いことがわかったが,定性的な傾向は同様であることが確認できた。 3.長周期ラメラ相の構造:同じラメラ相でも,希薄領域で形成される長周期のラメラ相の場合,流動場の影響は異なる形で表れることが期待される。そこで研究代表者が最近見出した非イオン界面活性剤/脂肪酸混合希薄水溶液の長周期ラメラ相において,光散乱,pH,およびパルス磁場勾配NMRの測定より相図の作成を行い,最も流動場の影響を受けやすい領域を特定した。
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