本研究では、多様な物性を示す遷移金属化合物の内、遷移金属のまわりが二次元的に平面配位しているもの、とりわけ内殻分光(偏光吸収、共鳴光電子放出、共鳴発光)の実験データに乏しいd-p相互作用系など分子性配位子を有する遷移金属錯体に注目し、分子性遷移金属化合物の物性研究に内殻分光を応用するための基礎を確立させることを目的としている。 2年目である平成12年度は、昨年度と同様、偏光特性の測定に適した平行な分子配向となっているニッケル化合物(シアン化物系、グリオキシマト塩、mnt塩)を取り上げた。実験方法として、新しく硬X線を利用した共鳴・非共鳴X線発光実験を行うとともに、新しく高スピン分子性ニッケル化合物について共鳴・非共鳴軟X線光電子分光の実験を行った。その結果、硬X線発光スペクトルには強相関系化合物のような配位子から金属への電荷移動帯が観測されないことがわかり、分子性遷移金属化合物においては金属-配位子間の共有結合性が強いため金属-配位子間の電子相関が抑えられていることがはっきりした。また、高スピン分子性遷移金属化合物の共鳴光電子スペクトルには低スピン系で観測されたような一電子的な挙動は観測されず、NiOのような強相関系に似た挙動を示すことがわかった。すなわち、開殻系では3d電子内の電子相関が重要になってくると考えられる。さらに今年度は、軟X線を効率よく得るための新しいKTP分光結晶の評価と開発と2p電子の関係するスピン軌道相互作用の理論解析法の開発を行った。
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