多様な物性を示す遷移金属化合物の中には遷移金属のまわりが二次元的に平面配位しているものも多い。特に分子性配位子を有する遷移金属錯体(ここでは広く「分子性遷移金属化合物」と呼ぶ)の系は、内殻分光の実験データに乏しく、他の系に比べて研究が非常に遅れている。本研究では三年計画で遷移金属のL殻領域(2p)や配位子に含まれる軽元素の内殻領域で偏光吸収、共鳴光電子放出、共鳴発光の内殻分光実験を多面的に行い、分子性遷移金属化合物の物性研究に内殻分光を応用するための基礎を確立させることを目的とした。主なL殻領域における研究成果は以下のとおり。 (1)分子性遷移金属化合物では金属-配位子間の共有結合性が強いため、スペクトル的に電子相関の効果は非常に少ない。 (2)他の系では知られていなかった配位子の空軌道(π^*軌道であることが偏光特性から決定)への遷移が共有結合の増加とともに異常なほど強いサテライト帯として観測される。 (3)サテライト帯の相対強度から共有結合性(π^*逆供与)の強さの評価ができる。 (4)サテライト帯の領域で光エネルギーを増加させた場合、共鳴光電子の運動エネルギーが減少する現象を見つけた。これはサテライト帯が1電子励起状態であるためであり、電子相関の効果が小さいことと矛盾しない。その依存性の傾きは固体中の分子間相互作用の強さが大きいと小さくなり、金属的性質があるとゼロになる。 (5)高スピン分子性遷移金属化合物の共鳴光電子スペクトルには低スピン系で観測されたような-電子的な挙動は観測されず、3d電子内の電子相関が重要になってくる。 (6)共鳴軟X線発光では他の系では知られていなかった金属から配位子への電荷移動遷移が初めて観測された。
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