研究概要 |
前年度同様、和歌山の急性ヒ素中毒患者の尿、また、中国内モンゴル地域で発生している慢性ヒ素中毒患者と、GaAs半導体工場の作業従事者の毛髪について、放射光蛍光X線分析を行った。その結果次に示すような成果が得られた。 (1)急性中毒患者の尿について、AsK-XANESスペクトルを測定したところ、5価の有機ヒ素に相当するスペクトルが得られた。この結果から、亜ヒ酸(3価の無機ヒ素)として経口摂取したヒ素が代謝された結果、最終的に5価の有機ヒ素の形で尿中に排出されたことがわかった。 (2)慢性中毒患者の毛髪について切片を作成し、断面を放射光マイクロビームを用いて分析したところ、ヒ素は毛髪外縁部に濃集していることが明らかとなった。この他、生体必須元素である亜鉛は毛髪断面全体に、銅はヒ素と同様に外縁部に分布していることがわかった。これらの傾向は11年度に行った急性中毒患者の毛髪断面の分析結果と良い一致を示した。 (3)GaAs半導体工場の作業従事者の毛髪を一次元分析したところ、As,Gaが一定のレベルで毛髪全体から検出された。これは毎日の作業により常に暴露を受けていることを示すものである。また、急性中毒の際に見受けられたZnとの相関は、外部暴露が主体のために見られていない。 (4)(3)の試料及び急性中毒患者の毛髪に関してAs K-XANESスペクトルを測定した。工場での作業従事者の場合は、GaAsに一致するピークと3価の有機ヒ素に対応するピークを示した。これに対し、急性中毒の場合には3価の無機ヒ素に近いスペクトルを示した。以上のことから、工場での作業従事者は、外暴露によって毛髪に付着したAsと呼吸などによりわずかながら吸い込んだヒ素が代謝され、有機ヒ素となったものの2種類のヒ素が毛髪に含まれることがわかった。さらに急性中毒患者については、代謝が行われず、無機ヒ素のまま、毛髪に蓄積していることが明らかとなった。 以上、本研究の遂行により、毛髪、皮膚、尿などの生検試料からヒ素を検出し、その化学形を明らかにすることができた。特に毛髪は、人間のある時期の時間履歴を保持しており、その情報を放射光蛍光X線分析を適用することによって有効に引き出せることが本研究により実証された。
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