がん細胞に見られるDMと呼ばれる染色体外遺伝因子は、数メガ塩基対程度の自律複製する環状DNAよりなる。我々は、DMが細胞から排出されると、がん細胞が脱がん化、分化することを見い出したことから、その排出機構に焦点を当てた研究を行ってきた。本年度の研究成果の第一は、DMの細胞内動態と排出機構に関するモデルを完成させたことにある。すなわち、DMは分裂期染色体に付着することによって娘細胞に安定に分配されるが、微小核誘導剤をDNA合成期に処理するとその後の分裂期に染色体から離れるDMが増加した。これは、微小核誘導剤がDMのDNAに2本鎖切断を誘導することが原因と考えられるが、その分子機構の理解を目指した研究は現在進行中である。一方、分裂期染色体に付着して娘細胞に分配されたDMは分裂終期に核内へ取り込まれるのに対し、分裂期染色体に付着できなかったDMは細胞質に取り残され、塊を作る。このような塊はラミンタンパク質で覆われていないものが多いが、細胞がS期に進行するとラミンタンパク質の大規模な合成と再編成が生じ、細胞質DMの周囲を覆って微小核が形成される。このような微小核の一部は、そのまま細胞外に放出される。 本年度の成果の第二は、このようなDMの動態に関する理解を深め一般化することを目的に、既知の構造を持つプラスミドDNAを細胞に導入して、その動態を検討したことから得られた。その中で最も重要な成果は、細胞質に導入されたプラスミドは必ず微小核に極めて良く似た構造を形成したことである。これは、プラスミドが開環状であるか閉環状であるかによらず、自律複製起点を持つ持たないによらづ、3種類の導入方法と3種類の細胞株、3種類のプラスミドDNA検出方法で確認された。現在、導入されたプラスミドDNAがどのような機構で細胞質内で塊となるのか、また、このように塊となったプラスミドDNAがどのようにして細胞から排出されるのかを検討中である。
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