がん遺伝子、薬剤耐性遺伝子の増幅は、ヒトがんの進展に決定的な役割を演じている。増幅した遺伝子は、主として染色体外の自律複製するDouble Minutes(DM)に局在する。我々はDMが細胞から排出されると、がん細胞が脱がん化、分化することを以前見い出した。このような排出は、細胞質に生じた微小核中にDMが選択的に取り込まれることを介する。本研究では、1)DMがなぜ微小核の中に取り込まれるのかを、細胞周期進行の過程でのDMの細胞内動態との関連で明らかにした。また、2)DMの複製タイミングを調べることにより、DMの核内での動きが、それ自身の複製と共役していることを示唆した。さらに、3)微小核に取り込まれたDMは、微小核ごと細胞外に放出されることを示す結果を得た。一方、このようなDMの細胞内動態と細胞外排出機構の理解を深め、より広範な染色体外遺伝因子に拡張して適用することを試みた。そのために、様々なシス構造を持つプラスミドDNAをがん細胞に導入し、4)短期間、および5)長期間での細胞内動態を検討した。4)の研究からは、細胞からの導入プラスミドの排出が、直鎖状DNAより環状DNAの方に効率的に働くこと、また、p53に依存した能動的な排出である可能性が示唆された。また、5)の研究からは、導入したプラスミドが自律的に複製できた時に、DMや、染色体上の巨大な増幅構造(HSR)を新規に形成することを見い出した。この実験系は、哺乳動物複製起点の機能を染色体外で評価する新規実験系として有効であると考えられる。また、がん細胞中で見られる遺伝子増幅の分子機構を知る上での貴重な実験系になる。さらに、特定遺伝子を高度に増幅させることによる有用蛋白質の大量生産系として、有用である。
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