研究概要 |
北海道大学苫小牧演習林の落葉広葉樹林において,林冠観測クレーンなどを利用して林冠開花性樹種の花序数推定および開花フェノロジーの定期記録を行い,複数の階層に設置したウィンドウトラップによりマルハナバチを定期採集した.マルハナバチは,早春期を除いてほぼ季節を通して林冠層でより多く採集され,直接観察によってもかれらが林冠で開花する主な虫媒性樹木8種の花を頻繁に訪花することが確認された.このことにより,林冠で大量に開花する樹木の花がマルハナバチの主要な餌資源であることが明らかになった.一方,マルハナバチを中心とした昆虫類によって花粉媒介が行われると考えられる樹木約20種,林床植物14種の開花フェロジー,結実率,自家和合性,主要なポリネーターを調査した.早春に開花する春植物は,様々な自家和合性の程度をもった種群から構成されており,自然状態では一般に高い結実率を維持していた.これに対して,林床の光環境が悪化していく初夏に開花するグループは,一般的に自家和合性が低く,自然状態での結実率は非常に低かった.これは,花粉不足に加えて資源の不足に依るところが大きく,光環境が繁殖成功に大きく関わっている可能性を示している.例えば,林床低木ミツバウツギの繁殖成功度は,ミツバウツギ各個体の上層を覆う林冠樹種のフェノロジーとマルハナバチによる隣家受粉の頻度に依存していた.さらに,マルハナバチの主要な蜜源植物であるエゾエンゴサクの結実パターンとマルハナバチの訪花行動の詳細な計測を行った.越冬後のマルハナバチにとって貴重な蜜源植物であるエゾエンゴサクは,生理的自家不和合性であるにもかかわらず,種子生産の花粉制限は認められなかった.これは,マルハナバチとエゾエンゴサクの密接な相互依存性によるものと考えられる.
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