研究概要 |
本研究では「樹木の開花量の年次変動にともないマルハナバチの個体群が大きく変動し,それによりマルハナバチが重要な花粉媒介者となっている林床の草本類の結実率も変動する」という仮説を証明するために,昨年度に引き続いて,主要樹種12種の開花量推定,春期マルハナバチ女王(標識再捕獲法による)とワーカー(ウィンドウトラップ採集による)の個体数推定,および越冬女王マルハナバチの蜜源植物であるエゾエンゴサクの結実率,花粉制限,マルハナバチの訪花パターン,盗蜜頻度とその他の林床性草本植物10種の繁殖システム並びに結実成功の調査を行った.特に,マルハナバチの重要な餌資源植物であるハクウンボクの開花結実フェノロジーと樹体内貯蔵養分の季節・年変動の関係を定量化した.この結果,大量開花の見られた年の枝先の貯蔵養分量は開花結実に伴って低下し,全く開花しなかった年の同時期と比較して低い値を取った.このことから開花結実には当年の資源獲得量ではなく前年までの貯蔵養分が重要な役割を果たしていることが明らかとなった.マルハナバチについては,春期女王個体群は,彼女らが生まれた前年の初夏の樹木開花量と,ワーカー個体群は当年の初夏の樹木開花量と同調した年次変化パターンを示した.また,一見片利共生と考えられていた,エゾエンゴサクと盗蜜を行うエゾオオマルハナバチの相利共生的関係が明らかになった.その他の林床草本については,春咲き植物は一般に結実率が高く,6〜7月に開花する初夏咲き種は一般に結実率が低く,7月以降に咲く種で結実率が高くなるという2山型の結実パターンが認められた.
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