研究概要 |
本研究では「樹木開花量の年変動により送粉者個体群が年変動し,それにより送粉者を共有する林床植物の結実率も年変動する」という仮説を証明するため,次の3項目について調査し,以下の知見を得た。 1.虫媒性樹種の開花量:昨年に引き続き約20種の開花量の年変動を定量化した。とくに開花量の年変動が大きいアオダモについてはその繁殖システムを,ハクウンボクについては開花結実の変動と貯蓄養分の変動ならびに当年光合成量の関係を明らかにした。またハクウンボクについては光合成産物のトレースを行い,非繁殖シュートから繁殖器官への転流が開花量決定に重要な役割を果たしていることを明らかにした。 2.マルハナバチの年次変動:森林調査区においては,春季の越冬女王の個体数(標識再捕獲法による)は彼女らが生まれた前年の樹木開花量と,ワーカー個体数(ウィンドウトラップ採集法による)は当年の樹木開花量と同調した年次変動パタンを示した。また,クイーンについては複数のエゾエンゴサクパッチにおいて,ワーカーについては森林調査区から数百m離れた草原において2年間の個体数変動を調査し,マルハナバチの個体数変動と採餌場所との関係をより広い空間スケールで評価した。 3.林床性草本10種の繁殖特性と結実成功:林床植物についても昨年度までの調査を継続し,とくに林縁と林内という光環境の異なる場所で結実率を比較することにより,資源制限と花粉制限の影響を相対的に評価した。また,今年度までのデータにより,(エゾエンゴサクを含む)林床性植物の繁殖システムの概要を評価できた。本研究により,初めて送粉系の長期動態が定量的に記述され,上記の仮説を部分的に支持する結果を得た。このことは,送粉系の動的側面を適切に評価するためには長期的モニタリングがきわめて重要であることを示唆する。
|