研究概要 |
1.サクラソウ自生地で野外から採集し室内に設置したトラマルハナバチの巣において,働きバチから採取した花粉塊に含まれる植物種組成を分析した.その結果,各個体が訪れる植物種数は限られているもののコロニー全体としては10種以上を利用していることが明らかとなり,同時に,サクラソウ開花期以外におけるマルハナバチコロニーの季節的な花資源の利用状況を把握するための手法が確立された. 2.北海道と長野県のサクラソウ自生地および実験的に株を配置した個体群における野外調査と遺伝解析により,花粉および種子を通じた遺伝子流動パターンが明らかとなり,サクラソウ個体群の空間構造がトラマルハナバチの授粉サービスを介して種子繁殖と子孫の遺伝的多様性に影響をおよぼすことが明らかになった。また,得られたデータに基づき,ポリネータの行動からサクラソウ個体群の遺伝子流動を予測するモデルを作成した。 3.カッコソウ自生地では有効なポリネータと考えられるトラマルハナバチの生息が確認され,異型個体間での人工授粉で種子が生産される場合もあることから,現在みられる種子生産の失敗は主に異型個体間の距離の増大と花密度の低下によることが示唆された.また,ユキワリソウについては,自生地における人工授粉実験により自家・同型不和合性が確認され,種子生産にはオドリバエなどのポリネータによる異型個体間での送粉が不可欠であることが明らかにされた. 4.本研究で得られた,サクラソウおよび近縁の異型花柱性植物個体群とポリネータ個体群とのかかわりに関する遺伝子から景観にいたるスケールにおける知見に基づき,異型花柱性植物とそのポリネータの保全に関しての具体的指針を提案することができる.
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