フタモンアシナガバチのワーカー由来のオスの頻度をアロザイムマーカーを使って分析した。その結果、平均40%のオス蜂がワーカーに由来することが明らかとなった。さらに、詳細な遺伝構造の分析を行うために、フタモンアシナガバチの核DNAの遺伝子配列をもとに、マイクロサテライト領域を増幅させるプライマーの設計を行った。その結果、20種類以上のプライマーセットを合成することができ、現在はPCR反応条件を調節している段階にある。現在までに4つのプライマーセットのPCR反応条件を調節し、PC01では5対立遺伝子、PC06では2対立遺伝子が観察された。その他のプライマーセットにもバンドパターンに変異が観察されており、現在条件を調整中である。 Ropalidia romandiの調査では、ワーカーが女王をコントロールする局面が存在すること、コロニー内の血縁度が比較的高く維持されていることを明らかにした。 フタモンアシナガバチの早期羽化オス(EM;Early Male)のアロザイム遺伝子型と核型を調査した。その結果、通常のオスはn=23の単数体個体であったが、EMは2n=46の2倍体オスであることが判明した。通常、2倍体オスは2倍体の精子を作り、もし交尾に成功しても、3倍体のメスを産出するので、事実上不妊とされている。したがって、本種のEMも事実上繁殖に寄与しないと考えられた。アシナガバチでのEMの存在は、ワーカーに交尾の機会を与えるという意味で、進化生態学上重要な形質の一つと考えられてきたが、本種の場合には、遺伝的荷重にしかならないことが示された。なお、この発見はPolistes属のアシナガバチでは世界で最初に得られた知見である。
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