昨年度の成果として、酸素発生活性の失活はチラコイド膜のイオン透過性増大と対応関係にあることが分かった。今年度は引き続き、どうしてこのような関係が成立するのかを、高等植物細胞のモデル系と考えられる単細胞緑藻クラミドモナスを用いて検討した。グラミシジンやイミダゾールを用いて細胞及びチラコイド膜内腔のpHを酸性又はアルカリ性にし、酸素発生反応の温度感受性がどの様に変化するかを調べた。その結果、チラコイド膜のイオン透過性が増大することにより、チラコイド内腔のpHが上昇し、それが酸素発生反応の阻害につながると推定することができた。 高等植物との比較と、クローニングに成功したラン藻33kDaタンパク質の高温処理時の挙動を調べるため、ラン藻における酸素発生反応と高温順化についても研究した。ラン藻においては高等植物と異なり、高温による酸素発生反応の失活と光化学系II反応中心活性の失活は同じ温度依存性を示した。高温処理後、培養温度に戻して測定すると、反応中心の活性と酸素発生反応の失活は異なる温度依存性を示したので、少なくとも両者の失活の初期段階は同一の機構によるが、反応中心の失活には第2の可逆的段階があることが推定された。好熱性ラン藻を用いた研究との比較から、好熱性ラン藻での酸素発生反応の高い耐熱性の原因は、33kDaタンパク質が強固に光化学系II複合体に結合することによって、酸素発生反応の耐熱性が、反応中心のそれと同じになることが原因であることが分かった。 遺伝子操作に関しては好熱性と常温性ラン藻の33kDaタンパク質遺伝子の前後300〜500bp部分のPCRを行い、クローニング中である。
|