高温による酸素発生反応の失活は、酸素発生に必要なマンガンクラスターを保護している33kDaタンパク質が光化学系II(PSII)複合体から解離する事が原因であったが、チラコイド膜の高温による半透性喪失も同様な温度で起きる事を見いだした。単離したチラコイド膜の流動性をコレステロール添加で低下させると酸素発生反応の失活温度も上昇した。さらに、コムギ及びシロイヌナズナを用い、15、25、35℃で栽培した植物生葉での高温耐性の比較を行ったところ、半透性喪失と酸素発生活性の失活温度は栽培温度によって変化したが、両者が一致する事は変わらなかった。これらの結果は、半透性喪失によるチラコイド内腔のイオン組成の変化が33kDaタンパク質の遊離を引き起こすという我々の仮説を支持する。 また、高温によりPSIのまわりの環状電子伝達系が活性化される事を見いだした。種々の阻害剤や欠失突然変異体を用いた実験の結果、NAD(P)H酸化還元酵素は関与せず、フラビン酵素が関与している事が証明できた。 3つ目の主要な成果は、PSII複合体の構成成分の一つCP47タンパク質にHisタグを付けたラン藻の突然変異体を用いて得られた。Hisタグにより、簡便にかつ効率よくPSII酸素発生コア複合体を単離精製できたので、25、35℃で培養した突然変異体からチラコイド膜、PSIIコア複合体を調製し、PSII活性の温度感受性の比較を行った。その結果、チラコイド膜では培養温度によりPSII活性の高温感受性に差があったが、精製したPSIIコア複合体では培養温度による差がなくなる事が明らかとなった。培養温度が異なる細胞由来のチラコイド膜から脂質を抽出し、それを用いてリポゾームを形成させ、そこに埋め込んだPSII反応中心の活性を比較したところ、反応中心の栽培温度による耐熱性の変化はチラコイド膜脂質の変化に由来することが分かった。
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