研究概要 |
ピレノイドはCO_2固定酵素Rubiscoを主成分とする藻類が一般的にもつ葉緑体内構造で、その有無や数等が緑藻類では属や種の形態分類学的識別基準となっている。しかしながら、ピレノイド構造の多様性をもたらしている分子レベルの基盤は現在のところ全く不明な状態である。昨年度、我々はピレノイドを欠く単細胞性緑藻Chloromonasとそれに近縁なChlamydo-monas計11株(クロロモナス系統群)の中でピレノイド消失等の形態的進化がCO_2濃縮機構の生理的進化と相関して起きている事を推測した(Morita et al.1999,Planta 208:365)。本年度は、クロロモナス系統群11株を含む計54株の緑藻綱の"CW group"(主にボルボックス目から構成される)および外群となる"DO group"2株(Scenedesmus、Pediastrum)のrbcL遺伝子(1128bp)、atpB遺伝子(1128bp)およびpsaB遺伝子(1392bp)を分子系統学的に解析し、これらの結果を相互に比較した。その結果、外群からのクロロモナス系統群のrbcLのアミノ酸置換数は他の"CW group"の約2倍であった。また、クロロモナス系統群内部のrbcL遺伝子に基づく50%以上の信頼度で支持される系統関係はatpBおよびpsaB遺伝子に基づくものと基本的に矛盾する点が認められ、矛盾点は本系統群内部のピレノイドの有無に関連したrbcLのアミノ酸置換と相関する事が示唆された。 また、ピレノイドの進化過程を陸上植物と群体性ボルボックス目で分子系統的に解析した。葉緑体蛋白質遺伝子4,563塩基対と18SrRNA遺伝子1,680塩基対を用いた最尤法の解析の結果、ピレノイドを持つツコゴケ類(Anthoceros)が陸上植物の最基部に位置する事が解析された。また、群体性ボルボックス目の葉緑体蛋白質遺伝子6,021塩基対を用いた系統解析では、Eudorinaの系統でピレノイドの数の減少する進化が考察された。
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