研究概要 |
本研究課題は以下の4つの研究実施計画からなる.それぞれの研究成果を以下にまとめた. I)変形体寿命株の確立:多数の変形体株を作出し,寿命を4つのカテゴリー(超短命,短命,通常,長寿)に分類した.また,これら4種の寿命株は,それぞれれ複数回交配しても安定して超短命あるいは短命になることを明らかにした.さらに,ヘミン含有量の少ない貧鉄培地を用いて,鉄分不足がミトコンドリア機能の減退を招き,その結果として変形体の寿命を短縮することを見出した. II)老化進行とミトコンドリアゲノム損傷:真正粘菌のmtDNAは,生体内で,部位特異的な一本鎖切断を受けていることを明らかにした.こうしたミトコンドリアゲノム損傷と変形体の老化との関係を,サザンハイブリダイゼーション法とプライマーエクステンション法を用いて,塩基配列レベルで詳細に検討した.その結果,老化進行にともなって,部位特異的一本鎖切断の頻度が上昇することを見出した. III)ゲノム損傷とミトコンドリア形態・機能不全の検出:変形体の老化進行にともなうミトコンドリアの機能変化を,酸素消費量を経時的に測定することでモニターした.その結果,変形体の酸素消費量は,超短命,短命,通常,長寿株いずれにおいても老化とともに暫時減少しており,ミトコンドリアの機能不全が変形体の老化進行とともに起こっていることを明らかにした. IV)ゲノム損傷誘導によるミトコンドリアの形態・機能不全と短命死:mFプラスミドの導入により,ミトコンドリアゲノムの高頻度組換えを誘発できる.アメーバ株を交配(mFxmF^+)することで,mFを変形体に導入して,超短命(寿命10〜60日)株を単離した.こうした株のほとんどで,mFが介在するミトコンドリアゲノムの高頻度組換えが起こっており,組換えによるミトコンドリア遺伝子の分断化も認められた.これらは,ミトコンドリアゲノム損傷が,短命死の原因になりうることを示している.
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