研究概要 |
細胞運動の多くは,モーター蛋白質が起こす滑り運動を原動力とする.滑り運動は,化学エネルギーを機械的エネルギーに変換することにより起こるが,このときモーター蛋白質がどのように力を発生し,力発生がどのように制御される結果,細胞の運動につながるかについては明らかにされていない.本研究では,ウニ精子鞭毛におけるダイニンに着目し,その分子レベルの機能を,制御機構との関連のもとに解明することを目指した.具体的には,1)1本のダブレット上に並ぶダイニン間の活性の協調性と独立性,2)軸糸内の複数のダブレット上のダイニンの活性が中心小管を介して実際にどのように制御されているのかを明らかにすることを目指し,平成11年度は2)についての成果を報告した.平成12年度は,1)についての知見を得る目的で,ウニ精子のエラスターゼ処理軸糸から得られる中心小管を含むダブレット微小管の太い束と含まない細い束とに分かれるような滑りについてダブレットの屈曲の効果を解析した.その結果,細い束または太い束に屈曲を与えると両者の重なり部分のダイニンの活性状態が変化し,滑り速度が上がったり,滑りを起こしていないダイニンが活性化されることを見つけた.この反応は中心小管の存在にはよらない.屈曲中の滑りはATPが与えられている間(約2秒)続くので,ダブレット上に並んだダイニン間で協調的な活性の変化が起こっていると推測される.また,1分子の力計測から,力の振動が逆方向にも出る可能性を示唆する結果を得た.この反応もダイニン分子に外部からの変位が加わった時に引き起こされる.これらの結果は,ダイニン分子の活性が相互作用をする微小管の変位により制御されることを示唆する.
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