1 九州、四国、東北で植物採集を行った(一部は他の人から採取協力を得た)。シケチシダ(4倍体)とイッポンワラビ(2倍体)の不稔とされる種間雑種(3倍体)ハコネシケチシダを多く採集できたが、四国の集団から4倍体の個体を発見した。これの起源について現在解析中である。 2 ハコネシケチシダが東大植物園「シダ園」という人口栽培環境下で、繁殖可能かどうかを確かめるために、そこで自然繁殖した幼個体の染色体数を観察したところ、形態からみてハコネシケチシダと同定される個体はいずれも3倍体であった。幼植物のうち、ハコネシケチシダがもっとも個体数が多く、次いでシケチシダで、イッポンワラビの幼植物はまれであった。これらから、ハコネシケチシダは人工環境で繁殖可能であることが確かめられ、しかも繁殖方法は無配生殖であることが示唆された。 3 ハコネシケチシダと思われる幼植物がどの親から由来したかを明らかにするために、電気泳動法によって酵素多型分析を予備的に行った。その結果、複数の親個体から幼植物が生じている可能性が示唆された。来年度は、本格的な分析を行い、ハコネシケチシダが無配生殖によって繁殖することを確認する予定である。 4 ハコネシケチシダがどの程度、発芽可能な胞子を生産し、配偶体を経て次世代の胞子体(個体)を生じるかを明らかにするために、走査電子顕微鏡を用いて胞子形態を観察し、寒天培地で胞子の発芽実験とその後の培養実験を行った。ハコネシケチシダは3倍体であるため減数分裂がうまくいかず、ほとんどの胞子は不稔であるが、ごくまれに非減数胞子と思われる正常胞子が作られた。それは配偶体に成長したが、現在は観察を継続している。
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