研究概要 |
1.東大植物園「シダ園」の石垣で自然繁殖した若いハコネシケチシダが交雑(シケチシダ4倍体×イッポンワラビ2倍体)によって生じたのか,自身の親株から無配生殖によって生じたのかを明らかにするために,「シダ園」および周辺に栽培している個体について酵素多型分析とDNA塩基配列解析を行った.約100個体について酵素多型分析したところ,9酵素11遺伝子座について変異があり,ハコネシケチシダ幼植物は7タイプが,成個体は26タイプが,イッポンワラビは3タイプが,シケチシダは3タイプが識別できた.各タイプを比較した結果,ハコネシケチシダ幼植物の5タイプは成個体から由来したことがわかり(残り2タイプは不明),イッポンワラビが交雑に関与して生じた可能性は皆無であった.また,葉緑体DNAのtrnL-trnF遺伝子間領域の塩基配列を比較し,酵素多型分析の結果を支持する結果を得た.さらに,ハコネシケチシダにはイッポンワラビとシケチシダを母親とする集団があり,この種そのものが複数回起源であることが確かめられた. 2.胞子母細胞の減数分裂,生殖などを調べた.その結果,ハコネシケチシダには無配生殖をかなりの頻度で行っている集団から,ごくわずかにそうしている集団まで変異があって,種内の構造が複雑であることが分かった.また,非減数胞子はこれまで知られているのとは違ったパターンで形成されている可能性があることが示唆された. 3.韓国済州島と半島南部で調査し,韓国にもハコネシケチシダが分布することを明らかにした.この韓国集団が日本集団とは独立に雑種起源したのか,もとは同一集団であったものが韓国と日本に分かれたかは,ハコネシケチシダの起源を明らかにする上で興味深い今後の課題である.
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