研究概要 |
本研究は、ヒヨドリバナ属植物の有性型・無性型においてLRR型耐病性遺伝子の遺伝的変異の大きさと分子進化のパターンを比較し、有性生殖は病原体に対抗進化するうえで有利であるという「赤の女王」仮説を検証することを目的としている。 病原体の感染を特異的に認識する植物のリセプターの遺伝子は1993年にはじめて単離され、その後6年間にロイシン・リッチ・リピート(LRR)をもつタンパク質ファミリーがウイルス・菌・線虫の感染を認識し、下流の防御系を誘導することが解明された。このLRR型耐病性遺伝子の既知の配列から、保存的領域を同定してプライマーを設計し、ヒヨドリバナ属植物の有性型・無性型それぞれ6個体からホモロガスあるいはパラロガスな領域を増幅することができた。PCR産物をクローニングし,1個体につき5クローンの配列を決定し、2×6×5=総計60個の配列情報を得た。1個体から得られた5クローンの配列間には、ほとんどの場合において塩基置換が認められたことから、1個体内には相当数のパラロガス遺伝子があると考えられる。そこで、1個体から得られた5クローンの配列間の平均遺伝子置換数を求め、有性型・無性型間で比較したところ、意外にも無性型(8.8個)の方が、有性型(5.1個)よりも平均遺伝子置換数が多かった。この事実は、2倍体である有性型よりも、倍数体である無性型の方が、ゲノム全体での突然変異率が大きいためではないかと考えられる。この結果は、「赤の女王」仮説を支持するものではないが、これまで盲点となっていた倍数体の効果が無視できないものであることを示すユニークなものである。 「赤の女王」仮説の検証を進めるためには、今後は、病原体の蛋白質と相互作用する領域と考えられる3'側のLRR領域の配列をRT-PCRで決定し、配列の比較を行う必要がある。
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