LSI基板材料である引き上げ法シリコン(CZ-Si)結晶成長技術は、現在、生産現場における長年の試行錯誤と経験に基づいた膨大なノウハウによって支えられている。しかし、複雑多様化する今後の結晶製造の操作環境に柔軟に対応するためには、CZ-Si結晶成長系をより科学的な観点から見直す必要が生じている。本研究では、実験と数値解析の両手法を駆使して、CZ-Si結晶成長系を、高温熱化学反応と熱・物質移動現象の観点から定量的に解明することを目的としている。今年度は2年間の研究の1年目に当たるが、研究は順調に推移し、以下のような結果・成果が得られた。 (1)石英るつぼ(SiO_2)とSi融液の反応(石英の溶解)現象を解明するため、新たにSiドロップ法を提案・開発した。この方法をSi融液に対する石英の溶解速度測定に適用した結果、従来知られている石英の溶解速度の5〜10倍の速い溶解速度が得られることを確認した。今後、これらの実験データを基に、Siドロップ内の酸素原子の流れの数値解析を進め、真の石英溶解速度を推測する。 (2)Si融液表面における酸素の移動速度数値解析に不可欠なSiOガス蒸気圧の精密測定方法を開発した。この方法により推定したSiO蒸気圧の温度依存性は、従来熱化学データから理論的に計算した特性に近いことを確認し、実用的なデータとして有用であることを提案した。 (3)Bを高濃度に添加した融液からの結晶成長で、成長界面(Si融液-Si結晶界面)における転位の挙動解析を進めた。その結果、種付け時の種子結晶側の熱ショック転位の抑制条件および成長結晶側に発生するミスフィット転位の抑制条件を明らかにした。これにより、従来無転位結晶成長に不可欠であったネッキング法によらない無転位結晶成長技術を確立した。
|