本研究は、有機薄膜の多層構造による新しい光機能性の創出を目指し、その光ダイナミクスを明らかにすることを目的に行った。結果を以下に示す。 1.光機能の高い有機材料として有機EL材料を研究の対象に選び、MBD法による多層構造の作成技術の確立を図った。アルミニウムキノリノール錯体(Alq)、ジアミン(TPD)、オキサジアゾール(PBD)、シクロペンタジエン(PPCP)の各種多層構造を作製し、X線回折および原子間力顕微鏡による非接触モードによる表面観察により、厚さ20Å程度に制御された多層構造が得られることがわかった。 2.UPS、励起PL、光吸収特性から有機薄膜材料のエネルギー状態を明らかにする手法を見いだし、HOMO、LUMO準位に関してAlq/TPDとAlq/PPCPがタイプII型、Alq/PBDがタイプI型に相当する構造を持つことが判明した。またAlq/PPCPとAlq/PBDがいずれも電子輸送性を持つことがわかった。 3.Ti-サファイアレーザを光源とした超高速光物性評価の条件を確立し、タイプI型の多層構造では励起されたキャリアが数psの時定数でAlqに移動、局在して高効率の発光に寄与すること、タイプII型の多層構造ではキャリアが分離して界面を介した発光が生じることがわかった。 4.電子輸送性有機薄膜にC_<60>を添加すると、移動度が向上することがわかった。これにより、電気伝導が特性を律している有機ELデバイスにおいて、発光効率の向上を達成した。 5.本研究で得られた光ダイナミクスの知見をもとに有機ELデバイス設計の手法を見出し、緑色ELデバイスにおける効率向上と、白色ELデバイスにおいて演色性の向上に寄与しえた。
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