研究概要 |
走査型近接場光学顕微鏡(Scanning Near-field Optical Microscope; SNOM)では従来のSNOMの欠点の多くが解消される.即ち,(1)S/N比に優れ,(2)試料材質に依存せず,(3)nmオーダの試料表面形状計測が可能である.SNOMの空間分解能は,そのプローブ形状に大きく依存していると考えられる.このため,プローブ開発においては,「如何にして走査に用いる光を局所的に発生させ,その光を試料表面の微細構造に作用させ,S/N比のよい散乱光信号に変換するか」が最重要課題である.我々は,現在では光の進行波共振を用いた微小共振球プローブと,微小突起のみのプローブの開発を行っている。微小共振球プロープは,直径約100〜150μmの微小球の内部に光の進行波共振を発生し,共振球の表面に生じる近接場光によって,球表面に設けられた微小突起を照明しプローブとして用いる.微小突起のみのプローブでは,全反射によって四角錐基板頂点付近に発生する近接場によって微小突起が照明され,プローブとして作用する. 我々のSNOM装置においては,試料表面の凹凸に応じて上記プローブから発生する散乱光を,石英基板を透過して垂直方向に設置した光学顕微鏡+PMT検出器にて集光,受光している.試料表面を走査しながら,この散乱光強度が一定になるようにフィードバック制御をかけることで,試料表面の微細形状が計測できる. 微小共振球プローブの製作には,共振球として,光ファイバの先端を炭酸ガスレーザー(波長;lO.6μm,出力;50W)によって球状に溶融したガラス球を用いた.この球と石英基板とは自然接触している.この構造では,基板表面に広範囲に作り出される近接場によるプローブ以外の場所からの散乱光を除去できた.また,実際に走査プローブとして働く微小突起は,この共振球の下面にフォトレジストを塗布し,HeCdレーザー(波長; 325nm,出力; 5mW)の集光スポットを露光させることで作成した.次に微小共振球プローブを用いて試料表面を走査した.このとき,プローブの照明には,半導体レーザー励起固体レーザーによって励起されたTi: Sapphireレーザーを用い,測定時の波長は800nm,偏光はS偏光である.試料にはコンパクトディスク(Compact Disc; CD)の表面を選んだ.走査範囲は10μm×10μmである.この結果を見ると,CD表面上のピットと思われる構造が観察できた.しかし,共振球プローブでは,共振状態が安定しない,すなわち試料が近接していない場合でも,プローブからの散乱光が安定しないという問題が生じた.このため測定像へ,共振状態の変動によると思われる散乱光強度変化成分が大きく影響してしまい,これ以上の空間分解能や測定の再現性は期待できなかった. 共振球プローブでの問題点は,現在,微小突起を直接,全反射レーザー光による近接場で照明することにより回避できている.共振球プローブの利点であった,試料表面とプローブ部以外の部分との衝突回避構造は,四角錐基板の先端に微小突起プローブを設けることでも実現可能である.現在は,微小突起に1.5μmのアクリル球を用いて実験している.今回の測定では,四角錐基板先端の形状が最適化できていないことから,曲率を持った試料について計測を実施した.試料には直径1mmのステンレス球を用いたが,ステンレス球の表面構造が再現性よく観察できていることがわかる. 以上,四角錐基板の頂点に直接微小突起を設けたタイプのプローブにより再現性のよい像が得られた.この結果から,現在のSNOMの構成で試料表面の観察像が得られることが確認されたので,この装置でどこまで分解能が実現できるかを確認していく予定である.この際,突起を照明するレーザーの波長や微小突起の微細形状を変化させた場合の観察像への影響(空間分解能,S/N比,像の見え方など)を調べることが,プローブ開発のキーパラメータの抽出につながると考えられる.特に,微小突起の微細形状については,3次元境界要素法シミュレーションから,空問分解能に対する影響が多大であるという結果が出ているので,集光レーザースポットによる微細構造プローブ創製法の開発に力を入れてゆく.
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