研究概要 |
先進材料は極めて環境に敏感であり,材料中に水素が吸蔵されることにより室温大気中のように比較的マイルドな環境中においても水素ぜい化を生じることが問題となっている。したがって,実使用環境中における延性・じん性を改善し,実用に耐えうる材料を開発するためには,材料内部への水素の侵入過程を明らかにするとともに,それに引き続く材料内部の水素の存在状態と分布,あるいは水素化物の形成とその分布状態を明らかにすることが不可欠である。本研究では,先進金属系材料を対象として,動的応力条件下の破壊特性を材料内部の水素状態と水素溶解量を昇温脱離ガス分析装置を用いて,拡散性水素量と非拡散性水素の状態分析を実施した。用いた材料は,TiAl金属間化合物,Ti-6Al-4V合金,高強度ステンレス鋼,高強度鋼等である。TiAl金属間化合物は,実験室空中においても大気中の水分により水素ぜい化を生じて,真空中よりも引張強度が低下すること,ラメラ材,2相材ともに陰極電解チャージ条件下のほうが乾燥空気中よりも高ΔK(ΔKeff)領域で疲労き裂進展速度が加速することを明らかにした。この時,低温度領域の水素放出速度はカソードチャージを施すことにより処女材に比べて大きくなり,ラメラ材では150℃と400-425℃に,また2相材では100℃と300℃に水素放出のピーク温度が観察された。これらの低温度領域の水素放出はカソードチャージにより試験片表面近傍層に生じた水素化物の分解や欠陥などにトラップされた水素放出に対応している。さらに高温域の600-750℃には,処女材およびカソードチャージ材ともに水素放出のピークが観察されたが,カソードチャージ材ではさらに高温域において水素放出が処女材に比べて多く見られた。高温域での水素放出は固溶水素の放出によるものと考えられ,高温域で放出する水素やき裂先端からの吸蔵水素がき裂進展の加速に大きな役割を果たしているものと考えられる。一方,Ti-6Al-4V合金では,T-L方位のほうがL-T方位よりも腐食環境中でのき裂進展の加速が顕著であること,また,昇温水素分析による水素放出とき裂進展速度の加速の間には明瞭な関係は認められず,腐食環境中において,き裂先端より吸蔵される微量水素によりき裂進展の加速が生じたものと考えられた。
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