研究概要 |
本研究は,鳴き音の美しいすずむしとこおろぎの翅の構造と発音機構を,鳴き音の特徴と翅の振動モードとの関係から工学的に解明し,その成果を設計に応用することを目的とする.本年度は,すずむしの発音メカニズムの解明を目的に,以下の結果を得た. 1.翅の構造の測定 翅の翅脈および薄膜部分の断面形状を電子顕微鏡により測定するとともに,翅への加振器となるやすり器のやすり歯形状を観察し,各部分でのやすり歯のピッチを明らかにした. 2.鳴き音の分析と発音動作 鳴き音は主周波数成分が約4.5kHzであり,その倍音である2倍および3倍調波成分にもピークが存在することが分かった.また,高速度カメラにより発音動作を観察した結果,翅を閉じるときに擦って発音し,擦る時間と使用している歯の数から翅への加振周波数は約5kHzでほぼ一定であり,鳴き音の主周波数成分と一致していることを明らかにした. 3.翅の振動モード解析 実験振動モード解析により,翅の前部と後部にそれぞれ腹を一つもつ基本モードが4.0k Hzに存在し,6.5kHz,9.1kHz,13.8kHzの固有振動数と固有モードを確認した.また,断面形状測定結果と弾性率内耗測定装置で測定したヤング率とポアソン比を用いて,有限要素法による振動モード解析を行い,実験振動モード解析結果と同様の固有モードが得られた. 4.発音メカニズムの分析 すずむしの翅には,やすり器とこすり器によって生じる衝撃加振力の周波数と一致する基本モードとその基本周波数の倍音に相当する固有振動数をもつ固有モードが存在し,鳴き音はそれらの総合として構成されていることを明らかにした. 5.鳴き音のモデル化と心地よさの検討 鳴き音を高周波正弦波と低周波正弦波のエンベロープの積でモデル化し,周波数を変化させて音を再現させ心地よさを評価した結果,心地よく聞こえる周波数領域が存在することが分かった.
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