研究概要 |
医療福祉の場面や家庭内では,人間と行動空間を共有して直接サポートすることができる人間共存ロボットの導入が求められている.このような人間共存ロボットには,周囲の環境や人間の動作にあわせて安全に作業を遂行する能力が重要となる.一方で従来研究では,ケーススタディで得られた知見をそのまま組み合わせてロボットに適用するにとどまっているため,人間の安全性と作業性を両立した行動を実現することが困難であった.このように,人間を含む複雑な環境にあわせながら作業を遂行するという高度な行動を実現するためには,システム全体を有機的に結合するための統合化技術を開発することが不可欠である.そこで本研究では,ロボットの要素技術とシステム統合化技術を安全性と作業性の両面から見直すことによって,安全性と作業性を評価基準としたロボット設計論の構築,実環境下での協調作業に適用可能な実用的な行動規範の導出,および開発した人間共存ロボットによる人間との協調作業を実現することを目的とする. 本年度は,人間共存ロボットの安全性の中でも衝突安全対策に着目し,人間との衝突時および衝突後の動作生成に必要なパラメータを導出・整理すると同時に,WENDYの環境・衝突状況認識能力を向上するためのセンシング・システムを開発した.具体的には,以下の2つの項目を並行して行った. 1.衝突安全パラメータの導出:本研究では人間共存ロボットの安全対策を体系的に扱うために,作業工程分析で用いられる特性要因図の考え方をロボット設計に導入した.また,人間との協調作業中に生じうる衝突状況の分類,作業性を維持するためのマニピュレータ動作の整理を行い,衝突安全のための衝突処理動作の決定に必要な計測・制御パラメータを導出した.具体的には,内界センサで検出可能な衝撃力,荷重作用時間などの情報と,衝突時の人間とロボットの相対位置・速度などの外界情報をパラメータとして取り上げ,それらに応じてマニピュレータが行うべき衝突処理動作あるいは実現すべき制御モードを明確化した. 2.人間共存ロボットのハードウェア開発:本研究で既に提案している「機構と制御の2重構造安全対策」の設計論に従って,研究プラットフォームとしてこれまでに開発したWENDYの身体メカニズムに付加することが可能な緩衝カバーの開発を行った.具体的には,衝撃緩衝能力(衝突安全性)に加えて人間―ロボット間の物理的インタラクション(協調作業性)を規定するために必要となる接触部位や作用力ベクトルなどを検出するために,6軸力センサとFSR(圧力センサ),および粘弾性素材(Memory-foam)を組み合わせた構造を有した前腕部搭載用緩衝カバーを開発した.この緩衝カバーの装着に伴う荷重増加と回避動作速度の向上を考慮して,WENDYの肩・肘部のアクチュエータの高出力化を図った.また,WENDY統合システムの有機的な結合を視野に入れた分散処理センシングサブシステムを構築した.
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