今年度の研究では、基板温度および酸素圧を変化させながら、ダイヤモンド結晶成長が効率よく行えるような条件を調べた。その結果、酸素圧が0.1〜0.2Torr、基板温度が600℃付近の条件でダイヤモンドの結晶核形成および成長が起こることを見いだした。SEM観察では、(111)配向したダイヤモンド結晶粒子に特有な結晶面が観察されており、さらに基板面内で結晶方向がそろっているのがわかった。結晶サイズは平均して0.5〜1μmであり、大きいものでは5μm、小さいもので0.1μm程度である。AFM観察より、結晶粒子の平均高さは約0.2μmであった。サファイア基板上ダイヤモンド薄膜のX線回折測定から、サファイア(0001)基板上には、(111)配向したダイヤモンド結晶がエピタキシャル成長していることがわかった。得られたダイヤモンド結晶の結晶性評価のために、顕微ラマン散乱スペクトルを測定すると、ダイヤモンドに特有な1332.8cm^<-1>を中心とする鋭いラマンピークが観測された。ピークの半値幅は3.4cm^<-1>と極めて小さく、高品質なダイヤモンド粒子が形成されていることがわかった。一方、基板表面粗さがダイヤモンド結晶成長へどのような影響を与えるかを調べるため、超平坦化処理をしていない市販のサファイア(0001)基板上に成膜を行った。その結果、(111)配向したダイヤモンド粒子は形成されるが、その面内配向性は観察されず、エピタキシー成長が抑制されていることがわかった。以上に述べた、酸素中でのグラファイトのレーザーアブレーションによるサファイア基板上へのダイヤモンドヘテロエピタキシャル成長の機構については大きな興味が持たれる。気相中の酸素が、非ダイヤモンド相の選択エッチングの役割を持つだけでなく、自己核形成促進と結晶成長の際の表面安定化に寄与しているのかどうかなどを今後調べる予定である。
|