研究概要 |
本研究では,二重トンネル接合の作製を行う計画であるが,本年度は,トンネルデバイスを作製するための装置の開発とトンネル素子の実現に必要な強磁性と反強磁性膜の交換結合二層膜についていろいろな角度から検討を行った。 (1) 二重トンネル接合は,4から5種類の金属を積層することによって構成される。また,マスクパターンの用いたプロセスが必要となる。このため,5元のマグネトロンスパッタリング装置に,超高真空中で交換可能なメタルマスク交換機構を取り付けた。これでスピンバルブ膜のラインを作製したところ,100μmのパターンが形成でき,磁気抵抗変化も得られた。 (2) Gaイオンをベースとした集束イオンビーム加工装置を用いて,100μmのスピンバルブのラインを幅1μmの細線まで加工した。加工後の磁気抵抗効果は,加工前から大幅に変化し,零磁界近傍の急激な抵抗変化は見られなくなった。これは,反強磁性層の一方向異方性の細線化による変化と考えられる。 (3) 微細な素子において,良好な磁気抵抗特性を得るためには,安定な反強磁性/強磁性交換結合二層膜の作製プロセスが重要である。そこで,反強磁性体としてIrMn,強磁性層としてFeCoBを用いた交換結合二層膜を5元スパッタリング装置で作製し,その構造と磁気特性を系統的に調べた。その結果,IrMnの組成に関しては,Ir組成30から35%において交換結合磁界が極大値を示すことが分かった。また,成膜時のスパッタ圧に関しては,0.4から4Paまで変化させて結合磁界を調べたが,スパッタ圧の高いほうが大きな値を示した。これは,XRDの解析から,IrMnのγ相の(111)配向性が高まったためと考えられる。さらに,交換結合磁界のIrMn層厚依存性を調べたところ,交換結合磁界は,ある臨界膜厚で急激に立ち上がること,スパッタ圧が高いほどこの臨界膜厚が薄いことが分かった。
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