研究概要 |
初年度において,電力用デバイスの電気絶縁・放熱膜として利用可能な窒化アルミニウム(AlN)膜を生成する場合,従来のシールド型真空アーク蒸着装置を用いて基板台に印加するバイアスによって生成膜の配向性が変化することを明らかにした。また,AlN膜の他(Al,Ti,Cr,Cu,Znの窒化物および酸化物薄膜)にこの手法がドロップレット除去に有効であることも明らかにした。しかし,この手法では,成膜速度の低下が低下してしまうという問題がある。また,膜に生じるピンホールをなくすことはできていない。 そこで,これらの問題を解決し,且つ,安価にかつ高速に薄膜を生成する装置開発を目的とし,拡張シールド型真空アーク蒸着装置を設計・試作した。装置はドロップレットを遮蔽した直後に,磁界でプラズマを基板固定台の位置に絞り込む構成のものである。この装置を用いて,ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を生成した。なお,コイル中心における磁束密度の軸方向成分を12mT(直径50mmの範囲で一様)とした。その結果,直径20mmの範囲において成膜速度を76nm/minと,従来のシールド型における値の10倍程度に改善することができた。この値は通常の真空アーク蒸着法における値と比較しても,2倍以上高い。12mT程度の磁束密度で,成膜速度がこのように改善されたのは,電子が磁界によって絞り込まれた結果,両極性拡散によってイオンが絞り込まれるためと考えた。以上のことから,真空アーク蒸着において成膜に主に寄与するのは中性粒子ではなくイオンであること,磁束密度分布を制御すれば成膜速度分府を改善できることが明らかになった。 今後,拡張シールド型装置における,プラズマパラメータの計測などを行うとともに,他の膜についても生成実験を行う予定である。また,それらの生成膜に関し,光学特性および機械的特性を分析した後,電気的特性を分析する予定である。
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