低温堆積緩衝層を用いたサファイア上へのGaNの成長において問題となっている高密度貫通転位の構造・特性の理解及びその低減のため、成長中に意識的に結晶に応力を印加し、貫通転位の振舞いを観察してその機構を明らかにすることを目的として研究を行った。 平成12年度は、(1)低温中間層を用いた熱応力印加、(2)トレンチ部での成長面変化による貫通転位への応力変化、を調べた。(1)に関しては、GaN低温中間層を用いると、サファイアとの熱膨張係数差によるニ軸性引張応力が、繰り返し回数と共に増加し、それにともなって刃状転位、混合転位両方とも屈曲して、その上のGaNでは貫通転位密度が減少することが分かった。一方、AlN低温中間層の場合は、その上のGaN成長において、AlNとGaNの格子定数不整に基づき、最初ニ軸性圧縮応力が加わることにより、引張応力を相殺してしまうこと、またそれに伴い、混合転位は減少するが刃状転位に影響は無いか、或いは逆に増加してしまうことが明らかとなった。(2)に関しては、トレンチ部でマストランスポートが起き、熱処理だけでトレンチが徐々に埋まってしまうこと、及び特に混合転位については、自らの応力場による力が加わり、必ず表面に垂直になるように伝播することが分かった。逆に、混合転位の振舞いから、どの様に成長が進むかを特定できることがわかった。一方、刃状転位については、横方向の応力が加わったとき、水平方向に屈曲することが実験的に明らかとなった。平成13年度は、昨年度の結果を更に発展させ、(1)GaNのトレンチ構造のみならず、サファイア基板やその他の基板についてもトレンチ構造を形成し、その際に生じる応力分布と転位の挙動を調べること、及び(2)部分的応力印下をGaNだけではなくAlGaNにも適用し、転位挙動の差異等について透過電子顕微鏡を用いて詳しく検討した。(1)に関しては、サファイア基板のトレンチ構造についても、昨年度見出した横方向応力による転位の屈曲が効率的に生じ、トレンチ上で低転位密度GaNを得ることに成功した。(2)に関しては、クラック抑制のため低温堆積AlN中間層とGaNのトレンチ構造を併用した。AlGaNの場合もGaNと同様、横方向の応力印加により低転位化できることが分かった。AlNモル分率0.25のAlGaNでトレンチ上部での転位密度は10^6cm^<-2>程度であり、GaNの横方向成長の結果と遜色ない。一方、GaとAlの拡散場での振る舞いに違いより、トレンチとテラス上部で混晶組成が異なってしまうという新たな現象も見出された。これは、局所的歪場が極めて複雑になることを意味しており、AlGaNの更なる低転位化のための課題が明らかとなった。
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