本研究は、地下埋設物のレーダー探査を対象とし、以下の特徴を有する信号処理法の開発を目的とした。 (1)限られた観測方向のデータから3次元の物体像が再構成できること (2)レーダー波長と同程度の大きさの物体の超高解像度な形状推定ができること (3)不要散乱波や媒質の不均質性等の強い擾乱に対して安定な推定が行えること (4)探査する地表の平坦性を必要としないこと 本研究では不均質媒質中に存在する任意の材質および形状の物体による電波の散乱現象を忠実にモデル化し、これと観測信号を比較する手法により問題の本質的な解決を図り、信号に含まれる情報と先験的情報を最大限に活用して、高精度と安定性を両立させた推定を行う手法を採用した。また、雑音中の微弱な信号を抽出するため、地下探査レーダー画像に固有の特徴を利用した雑音抑制手法を開発し、耐雑音特性の向上を図った。 まず11年度には、媒質の分散性を考慮して散乱波の伝播を模擬し、物体の形状をモデルとの比較に基づき反復改良により高分解能に推定する手法を開発した。本手法の中核をなすのは与えたモデルからの散乱波を高速に推定するアルゴリズムであり、これにはエッジ回折波を含むように拡張したレイトレーシング法を開発した。この手法を3次元に拡張するため、レイチューブの概念を導入して任意形状の面積要素からの散乱波と、その不均質媒質中の伝播を取り扱うアルゴリズムの検討と開発を進めた。 続く12年度には、地下探査レーダー画像が双曲線上のパターンを持つことを利用し、雑音に埋もれた信号より、初期値推定に用いる目標物体情報を抽出するための非パラメトリック雑音除去アルゴリズムの開発を行った。特に地下探査レーダー信号に特化した放物型ウェーブレットを用いた手法について、その構成法や特性を研究して実装し、2次元フーリエ変換を利用した高速化を実現した。さらに、これを基本波形とする再帰的非直交分解により画像の特徴を抽出すると同時に雑音を抑圧するアルゴリズムを開発した。 13年度には、これらのアルゴリズムを統合し、その性能を数値実験により定量的に評価し、これが実用性能を持つことを検証した。さらに、流星ヘッドエコー観測や宇宙プラズマ中の波動観測など、地下探査以外の各種レーダーや電波到来方向推定問題にも同一の原理を応用し、その有効性を示して、本研究で開発した手法の一般性を確立した。
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