研究概要 |
都市化に伴う土地利用の変化や人工排熱の増大が都市気象に与える影響を評価するためには、数値計算よるシミュレーションが有効であると考えられる。ここで、3次元熱環境モデルのように高さ情報が必要なものを利用するためには、解析対象都市の精密な標高データが必要となる。しかしながら、現在急速な都市化過程にある中国などの発展途上国では、このようなデータが不足しており、モデルの適用は困難なことが多い。そこで、研究者らは、地球のいかなる地域においても地表面状況を観測可能なSPOT衛星のステレオ画像を利用し、モデルの入力パラメータとして必要な標高データをDEM(数値標高モデル:Digital Elevation Model)によって作成した。これによって計算された標高格子データを、Mellor and Ymada大気乱流モデルをもとに開発した計算プログラムに入力し、都市域の拡大が地域の熱環境に及ぼす影響についてのシミュレーション評価を行った。対象とした都市は、中国の深セン市である。同市は、1980年に経済特区の指定を受けて以来,わずか15年という短期間で人口は約10倍,総生産額の名目で見る経済規模は約300倍に急成長した都市である.シミュレーションの結果、以下の知見が得られた。(1)急速な土地利用変化の影響で,高温化が進んでおり、深セン市における年平均気温の上昇は、周辺都市との比較によっても確認された.(2)午前中は対象地域全域で標高の高い南東部山地から平野部へと風が吹き降ろされている.(3)都市部の気温上昇により発生した海風が内陸部へと運ぶ都市熱は,平野部に配置された山地の影響で比較的抑えられている.本研究は,データが圧倒的に不足している発展途上国の都市や地域を対象に、モデルによる熱環境解析を行う方法を開発する1つの試みとしても意味を持つものである。さらに、日本国内の都市を対象に、都市内における小規模な緑地の面積とその特性を衛星情報によって評価する手法の開発を行った。
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