研究概要 |
本研究では,人の居方概念を展開させた分析・考察によって以下の成果を得た。 1.都市の公共空間はどのように設計されてきたか 建築雑誌を資料とした文献調査から,戦後の日本の代表的パブリックスペースが,その計画時に,設計者がどのようなアクティビティ,利用,人の居方を想定していたかを分析した。その結果,交流,人の流れ,やすらぎ,にぎわい,疑似コミュニティ等のコンセプトが抽出され,その時代的変遷を明らかにした。こうしたコンセプトには,その場で行われる行為や関係を規定・誘発することを意図したものが多く,孤独性を享受する,一人で何もせずにただ居られるといった暖昧な行為を意図したものは極めて限られている。 2.視覚的関係性という視点からみる都市の公共空間 関西を中心とした代表的な都市公共空間における人の居方の実態をサーベイし,その状況を分析するための視点として,視覚的関係性概念を用い,他者や周囲の都市空間との関係を記述する方法を提案した。またこの立場から,いわゆる「見る-見られる」関係の他にも背後から眺める,気にならない他者等の関係性があることを明らかにした。また環境デザインにおいては,場所で起こりうる視覚的関係性の可能性が重要であると考えられる。 3.都市環境における「自分の世界」「別の世界」という図式 「好きな場所」「重要な場所」のアンケート調査の分析から,生活者にとっての重要な場所のタイポロジーを行い,これらを位置づけるための「自分の世界」「別の世界」という軸を設定し,いわゆる安定的な居場所以外の,日常とは別の世界も人々にとって重要な意味があることを明らかにした。これを踏まえ,現在の都市計画において主要な,カプセルタイプの居場所とテーマパークの間に,身近な非日常とでもいうべき環境デザインの可能性があることを提案した。
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