研究概要 |
目的・方法:YBa2Cu3Oy(YBCO)系超電導体の臨界電流密度Jc、不可逆磁場Hirr、Jc-H曲線に於けるピーク効果は材料の微細組織に強く依存している。YBCOでは、酸素濃度が周囲の温度や酸素分圧によって容易に変動する。酸素濃度の変動は結晶構造の変化だけでなくOやCuイオンの価数変動、ひいてはキャリアー分布状にまで変化をもたらす。本年度の研究目的はエネルギーフィルタリング収束電子回折を用いてYBCOの局所酸素濃度変化を定量的に評価し、ピーク効果の原因を明らかにすることである。 結果・考察:(1)直径2〜3nmのビームを[001]方向から入射して得られる電子回折パターンから軸比b/aを測定し、酸素濃度の局所変動を調べた。双晶を含む結晶では双晶を含まないものに比べて場所による酸素濃度変動幅が大きいこと、双晶ドメイン内部に比べて双晶境界近傍で酸素濃度変動が大きいことが判明した。双晶境界の有無によってピーク効果の現れ方が大きくことなる原因は酸素濃度の局所変動によるものであることが明らかになった。 (2)理論計算の結果、収束電子回折強度から酸素濃度を求めるには成分原子の正確な熱振動の情報(B因子の値)が必要であることがわかった。粉末中性子回折実験により求められているY, Ba, Cu, Oの室温におけるB因子を元にDebyeモデルを用いて任意の温度におけるB因子の値を計算した。熱振動の結晶学的非等方性を考慮する方が、求められる酸素濃度は高い値を示すことがわかった。00l系統の反射を励起した収束電子回折強度を理論計算強度と比較して局所酸素濃度を求めた。得られる酸素濃度は直径2〜3nm,深さ80〜100nm程度の円筒状領域の平均値である。このようにして得られた酸素濃度は場所によって変動していた。収束電子回折強度をさらに詳細に解析すると、酸素濃度の変動だけでなくOやCuイオンの価数変動、ひいてはキャリアー分布状に関する情報を入手できることが確かめられた。本研究で確立された測定・解析手法は他の高温超電導体へも適用できる。
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