研究概要 |
本研究はデジタル制御低温プラズマMOCVD装置を用いて,基板と目的とする薄膜の間に異なる組成をもつバッファー層や組成を厚さ方向に傾斜させたバッファー層を導入し,薄膜ー基板間の応力や挌子定数のミスマッチを制御して,薄膜に異なる応力を与えた完全結晶薄膜を作成することを目指している.初年度の今年は薄膜にPb(Zr,Ti)O_3(PZT)を,基板に挌子定数が比較的近いSrTiO_3(ST)単結晶を用い,様々なバッファー層を形成し,PZT薄膜の単結晶性と残留応力について検討した. Pb原料を連続供給したまま、Zr,Ti原料を交互あるいは一方をパルス状に供給しバッファー層を成膜した.さらにバッファー層上にPZT薄膜を成膜し,X線回折、極点図形,精密X線回折装置(MRD),XPS等を用いて結晶性、配向性,組成などを評価した.その結果,ST(100)単結晶基板上に成膜した全てのPZT系薄膜はエピタキシャル成長した.PT→PZT傾斜組成バッファー層またはPZ→PZT傾斜組成バッファー層上に成膜したPZT薄膜(膜厚はバッファー層50nm、PZT50nm)を,ST基板上に直接成膜したPZT(50nm)と比較すると,PT→PZTバッファー層を持つPZT薄膜では、PZT面内方向の残留応力が約0.7GPa緩和した。また逆に、PZ→PZT傾斜組成バッファー層を導入した場合は、残留応力が1.2Gpa程度増加した.また,膜厚が薄いPT(25nm)バッファー層では残留応力の減少が最も大きく約1.3GPa減少した.また、MRDの逆挌子空間マッピングからもバッファー層の導入による組成傾斜と応力緩和作用が確認できた.これらの現象は熱膨張率と格子定数の差により理解することができた.すなわち,種々のバッファー層の導入により,PZT薄膜の残留応力を制御することができた.
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