研究概要 |
本研究はデジタル制御低温プラズマMOCVD装置を用いて,基板と薄膜の間に異なる組成や組成を厚さ方向に傾斜させたバッファー層を導入し,薄膜-基板間の応力や格子定数のミスマッチを制御して,薄膜に異なる応力を与えた完全結晶薄膜を作成し,電気特性の制御を行うことを目指している.初年度はPb(Zr,Ti)O3(PZT)薄膜とSrTiO3(ST)単結晶基板界面に形成したバッファー層が結晶性と残留応力に与える影響の検討した.本年度は,薄膜(PZTまたはPbTiO3(PT))と基板(STまたはMgO)の界面にエピタキシャル電極(白金(Pt)あるいは(La,Sr)CoO3(LSCO))を導入し,さらにそれらの界面にバッファー層を導入することで電気特性を意図的に制御することを目的に研究を行った. 実験はパルスMOCVD法を用いてPZTあるいはPT薄膜あるいはバッファー層を成膜した.エピタキシャル電極にはPt,LSCO電極はスパッターまたはPLD法で成膜した.これらの薄膜は結晶性、配向性,組成などを評価し,さらに強誘電特性やリーク特性を測定した.その結果,ST(100),MgO(100)単結晶基板上に,LSCOやPtのエピタキシャル電極を成膜する条件を確立し,PZT系薄膜のエピタキシャル成長に成功した.電極もバッファー層の役割をすることからPZT/LSCO/STあるいはPZT/Pt/STのPZT薄膜ではPZT/STのPZT薄膜に比べてより強い引っ張り応力を受け,電特も変化することが判明した.この現象はPZT/Pt/ST構造においては構成相の熱膨張率の違いから説明できるものの,PZT/LSCO/STでは逆の結果になることから,LSCOの薄膜上での組成ずれや,格子欠陥などで説明された.同様な考察から,PT薄膜にST基板からかかる強い引っ張り応力をPT薄膜をバッファー層(PT(B))として下部電極と基板の界面に導入したPT/Pt/PT(B)/ST構造を構成することで緩和する試みを行った.その結果,PT(B)層の厚さを変化することで基板にかかる応力を制御することに成功した.すなわち,種々のバッファー層の導入により,PZTやPT薄膜の残留応力を制御し,所定の電気特性を得ることが可能なった.
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