研究概要 |
『光誘起構造変化』は有機固体や分子ではよく知られているが、無機酸化物では極めて希である。そこで本研究では、第1に、可視光で『光誘起構造変化』をする新規酸化物の発見を目指すこと、そして第2に、現象が結晶構造のどこの部分で起きているのかを、またどの電子遷移が現象の本質に関係しているのかを明らかにすることを目的とした。この目的を達成するためには、光による励起が引き金となって発生する、固体中での構造変化を、同じ光源を用いたラマン散乱実験により『その場』観察するという独自の計測技術を完成させる必要があるが、それ以前の問題として、ラマン散乱により観測されるスペクトルの帰属を予め確立しておく必要がある。光誘起構造変化をする候補物質として、酸素欠損したYBa_2Cu_3O_y、(Pb_2Cu)Sr_2(Ca,Y)Cu_2O_yおよびBi_2Sr_2CaCu_2O_yに着目し、まずこれらの物質系の単結晶を育成し、様々な方位からの偏光ラマンスペクトルを測定し、混乱していたラマンスペクトルの帰属を確立した。 もともと『光誘起構造変化』は光による電子励起が引き金となって発生し、一般に固体中での大きなゆらぎを伴うものである。無限に存在すると言える夥しい種類の酸化物の中から候補物質を絞り込むためには、これら光によって誘起される構造変化を手軽にモニターできる手段を確立しなければならない。そこで本研究では、帰属の確立した上記モデル物質を用いて、可視光領域の様々な波長を有する各種レーザー(Ar,He-Ne,Kr,色素,Ti-サファイアなど)をラマン散乱の光源として構造のゆらぎを『その場』観察するというラマン分光システムの有用性を検討し、新たな光誘起構造変化をする物質探索手段として極めて有望であることを明らかにした。
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