研究概要 |
本研究では、光誘起構造変化をする酸化物を探索する手法の確立を目指した。夥しい種類の酸化物の中から新たな候補物質を選ぶには、光によって誘起される微妙な構造変化を精密にモニターしなければならない。特定の可視光で構造変化する酸化物を探索し、その機構を解明するために、ラマン分光計に様々な波長で発振する各種レーザー(Kr,色素,Ti-サファイアなど)をラマン散乱の光源として構造変化を『その場』観察しながら、光と物質間の相互作用の大きさを見極め、候補物質の絞り込みを行った。その中から発見されたのが酸素がわずかに欠損したYBa_2Cu_3O_x(以下Y123と略する)であった。 Y123系における光誘起構造変化の機構を解明するために、(1)現象が結晶の構造のどこの部分で起きているのか、また(2)どの電子遷移が現象の本質に関係しているのか、を明らかにした。ラマン散乱は、特定の原子団に関与する振動モードを独立に観測できるので、スペクトルの特定モードの変化から光誘起構造変化の舞台を特定することが出来た。その結果、現象の舞台は一次元のCuO鎖であることが明らかになった。一方、光による電子励起が引き金となって発生する『光誘起構造変化』の機構を解明するために、波長363nmの近紫外光から波長400-800nm領域のさまざまなエネルギーの可視光をラマン散乱の励起光源として用い、現象を引き起こすのに必要なエネルギー閾値を2.15eVと求め、電子遷移の起源は分子状Cu-O間の電荷移動に対応するものであることが明らかになった。
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