研究概要 |
平成11年度の研究実施計画に対して、NAISTに導入予定の多元RFスパッタ装置が1年延び、強誘電体PLZT[(PbLa)(ZrTi)O_3]薄膜の研究立上げが遅れているが、大阪府立産技総研の対向ターゲット式RFスパッタ装置を用いて堆積したPZT[Pb(Zr,Ti)O_3]薄膜を中心に研究を実施し、下記の幾つかの重要な知見を得た。 (1)上記RFスパッタ装置により、Pt(600nm)/Ti(30nm)/SiO_2(800nm)/Si基板上にPZT薄膜を基板温度℃で堆積し、ペロブスカイト(Perov)相が得られたが、このas-depo膜にはパイロクロア(Pyro)相、TiO_2相など種々の結晶相が混在し、強誘電体相のみでない。その膜を大気中で約1時間熱処理し、Perov(111)単相が99%以上の高配向性膜が得られ、その強誘電特性は残留分極率52μC/cm^2、飽和分極率85μC/cm^2と極めて良質であった。PZT薄膜試料を膜厚30,50,100,200,300nmの5種類準備し、as-depo.試料と上記の熱処理を施した試料について、微視的、巨視的な構造的、光学的特性を測定評価した。 (2)X線回析測定から、as-depo.試料では、膜厚が薄くなるとperov相(111)ピークは殆ど変わらないが、(101)ピークはTiO_2(101)、PbO_2ピークとともに減少する傾向にあり、熱処理後には、膜厚の厚いほどPerov相(111)のみがPt(111)によって配向して顕著になる。なお、膜厚30nmでは、熱処理によってPt(200)ピークが観測され、この様な極薄膜では下地との界面反応の影響が大きいことが分かった。原子間力顕微鏡(AFM)観察から、as-depo試料の粒径はほぼ30nm〜68nmで、分布も小さい。しかし、熱処理後では30nm厚の試料を除いてほぼ2倍粒径に成長し、300nm厚では粒径が飽和の傾向を示し、粒径ばらつきもかなり大きくなる。100nm以下の膜厚ではリーク電流が極めて大きくP-Eヒステリシスは測定できなかった。 (3)光学特性として、エリプソ測定から得た巨視的な屈折率は、熱処理前後で僅かに増加の傾向があり、200nm以下で膜厚を薄くすると単調に減少が見られる。微視的な光学特性を調べるために、Ar^+レーザを用いた反射型近接場光学顕微鏡(SNOM)像を測定した。その結果、as-depo膜では膜厚に依らずコントラストの無いほぼ一様なSNOMの像が得られたが、熱処理後にはいずれの膜厚でもトポグラフィー像や粒径と相関のない数μm^2の偏光に依存したSNOMコントラスト像が得られた。これらの像は、膜中の結晶相や配向状態の微視的揺らぎを反映していると考えられる。 平成12年度には、特に極薄の強誘電体PZT薄膜の界面状態を透過モードSNOMで測定、およびこの3月末に導入される多元RFスパッタ装置の立上げと強誘電体PLZT薄膜の成長と測定・評価を行う予定である。
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