研究概要 |
1.目的 構造材として使用される金属上の不動態皮膜は,古くからその存在は明らかになっているが,未だ確固たる構造,組成などは明らかになっていない。申請者らは,以前から,この数nmオーダーの酸化物皮膜に関して,種々の光学手法,電気化学手法を通じて,限定された系ではあるが,厚さ,構造,組成を明らかにしてきている。陰イオンが表面不動態皮膜に及ぼす影響は,吸着過程を通じて起こるとの説が有力であるが,測定手法が確立されたない無いため未だ確証は得られていない。本研究は吸着に伴う酸化物表面の電子準位情報を光学手法(ルミネッセンス測定,電位変調反射測定)から調べ,吸着過程による皮膜の物性変化を求めようとするものである。 2.結果 鉄,ニッケルならびにステンレス鋼上に生成する不動態皮膜に関して,溶液内にある酸化還元種との電子伝達速度を調べた。鉄,ステンレス鋼上の不動態皮膜はアノードバイアス下で電子伝達を抑制するが,ニッケルのそれは抑制しない。電子伝達速度を皮膜生成時の電位,溶液内アニオン種に関して調べた。同様の不動態皮膜に関して,電極キャパシタンスと関連させた電位変調反射測定を行った。明らかに鉄,ステンレス鋼の不動態皮膜とニッケルのそれは,皮膜内の過電圧分布が異なることが見い出された。これらの結果は鉄,ステンレス鋼の不動態皮膜では空乏層生成による空間障壁が生成するのに対して,ニッケル不動態皮膜では電位が主に酸化物/水溶液界面にかかるためと考えられる。さらに,紫外光励起条件下での光励起発光(ルミネッセンス)が測定可能な装置を,分光器とマルチ光学検出器を組み合わせて作製した。現在,不動態薄膜からの微弱な発光をアノード分極下で測定中である。
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