研究概要 |
ULSIの高集積化に伴い配線ピッチが微細化して配線抵抗が増大するため,配線幅はあまり変化させずに多層化する手法が多く用いられている。その結果として,現状では配線層数は8層程度であり,将来的には12層程度まで増えると言われている。すなわち,ULSI製造工程における積層配線形成過程の占める割合は増大する一方である。このような微細化と多層化の進展により,高アスペクト比を持つトレンチ/ビアホール構造内に均一に配線材料を形成する必要があり,段差被覆性に優れたCVD法が益々重要になってきている。しかし,従来のCVD法では,100オングストローム程度で均一かつ良質な薄膜を形成するという要求に応えられなくなっており,新たな概念の導入によるプロセスの高度化が要求されている。 従来のCVD法による製膜では定常的な操作を基本としていたが,ガス流量の周期的な変調操作,濃度・温度・圧力などの変調により,基板表面での吸着・拡散・核発生などを促進させれば,上記要求を満足するプロセスの構築が可能になるものと期待される。本研究を立案した際にはこのような概念はほとんどなかったが,本研究期間の間に本手法と類似のALD(Atomic Layer Deposition)法が開発され,急速に着目を集めている。本研究ではこのようなALD,FM(Flow Modulation:流量変調)手法によるプロセス高度化の基礎研究を行った。具体的にはTiCl_4/NH_3を原料とするTiN薄膜合成系において検討を行った。この系ではTiCl_4濃度が高い条件では段差被覆性に優れた製膜特性を示すが,残留塩素濃度が高く,比抵抗も高くなってしまう。本プロセスにおいて,NH_3流量を変調させ,TiN膜合成とNH_3による還元を繰り返し行うことによって,段差被覆性と低残留塩素濃度を両立させることが可能となる。今年度は、アンモニア還元により塩素を低減させる効果について詳細な検討を行った。1回に作製するTiN薄膜の厚さを系統的に変化させ,残留塩素濃度がどのように変化するかを考察した。また,薄膜中の残留塩素がどのように分布しているかをTEMおよびEDX観察によって検討行った。その結果,薄膜農中に残留する塩素は結晶粒界と結晶粒内に残存するものに分けて考えることができ,脱離温度特性から3つのグループに分けられるということが分かった。これらの結果を踏まえて,流量変調操作は結晶粒内の残留塩素を効率よく低減させることに効果的であることが分かった。これらの知見を用いて最適な変調操作シーケンスを確立し,低温でも良質な薄膜を高速に作製するプロセスを構築できた。
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