研究概要 |
研究題目における計測データとは、応力腐食割れや水素脆性割れにおける電位振動や弾性波動(AcousticEmission,AE)を言うが、初年度は、板波(ラム波)と円筒波(hollow cylindrical guided wave)の音源位置評定やダイナミックスを解析するための道具の開発を行った。すなわち、薄板や中実丸棒、円管を用いる環境劣化割れのAEは、分散性(速度が周波数によって変化)でかつ色々なモードが存在するため、大型CT試験片で検出される実体波(縦波、横波)の解析法が適用できない。そこで、ラム波については、縦波用圧電素子の高速振動(面外振動)を人工へき開型破破壊源に用いて初動So(zero-thorder symmetric mode)波に対する一括応答関数をもとめ、仮定した破壊速度との畳込み積分によって波形をシミュレーションし、検出波形とマッチングさせる方法を開発した。この方法によって薄い高強度鋼板の水素誘起割れや水素脆性破壊のダイナミックスを推定する方法を確立した。この方法は現在、オーステナイト系ステンレス鋼のSCCの解析に用いられ、粒内型SCCではAEは検出されない(されにくい)が、粒界型SCCでは十分な振幅を持ったSCCが検出されることなど、破壊形態によって割れのメカニズムが異なることを明らかにした。この手法は、PVD-TiN皮膜を持つSUS304鋼の塩化物SCCに応用され、皮膜破壊による電位振動の一括応答関数を決定し、電位振動とAE原波形解析によるメカニズムの解明を実験中である。 一方、円筒波では、円周方向に無限とも言えるモードが存在するため、その解析はラム波以上に難しい。本年度では、Gazisが示した特性方程式を厳密に解くことによって縦(L-)モード、曲げ(F-)モード、ねじり(T-)モードの速度分散を明らかにすることができた。この結果を用いて、熱交換器チューブのSCC発生場所を一個のAEセンサーから推定する方法を新たに提唱した(2000年5月パリで発売予定)。円筒初動波であるL(0,1)モード振幅は、音源位置に影響されないため、初動波について波形シミュレーションを行えば破壊のダイナミックスが調べられることがわかってきた。現在、黄銅円管のマトソン氏液によるアンモニアSCCの解析を展開中である。基礎的解析ツールははほぼ完成させたので、来年度からの実験に応用する。
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